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zoom RSS 大垂水峠、ある男の思い

<<   作成日時 : 2007/10/20 20:26   >>

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 かつて大垂水峠(おおだるみとうげ)を走っていた。母親を心配させ、大勢の人に迷惑をかけながら。申しわけないと思っている。今は、高齢の母のために親孝行?

 某年9月20日。午前中、母を車で近所のスーパーまで買い物につれていった。12時過ぎツーリングに出発。9月13日に行く予定にしていてはたせなかった「海」にどうしても行きたかったので、江の島方面に向かうことにした。まず、多摩川に出て、その堤防沿いを走る。しかし、この日は、なかなか調子が出なかった。気分がまったくのらずイライラしていた。朝から体調が悪く身体が重かった。こんな状態では、途中交通の混雑が予想される湘南方面へ行くのはつらく思われた。そこで、思いきって目的地を変え、しばらく行っていない大垂水峠に行くことにした。

 鶴川街道まで行き、20号線をへて中央高速の調布インターに到着。そこから、一路相模湖東インターへと向かった。今日は時間も遅いし、コンディションも良くないので、混雑する16号線を通る八王子インターからのルート(通常のルート)を避け、高速を使って大垂水峠のより間近まで行ける、このルートをとることにしたのだ。

 相模湖東インターを出ると、20号線を上り方面へと向かった。めざすは大垂水峠の旭山ドライブインだ。ローリングを防止するため路面に施したひどい凹凸、すなわち「シケイン」のある、あまり快適とはいえないワインディングをしばらく走り、1時半頃ドライブインに到着した。ここを訪れるのは、5月以来4カ月ぶりだ。

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         シケインのあるワインディング。

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         旭山ドライブイン。

 オートバイのエンジンを切ると、僕はすぐ食堂に向かった。「こんちわ」と声をかけながら中に入る。厨房にいたおばさんが僕を見てうれしそうな笑顔を見せてくれた。そして、その時すぐ近くまで来ていたおやじさんが、いきなり、「ずいぶんひさしぶりじゃないか!」と大声で話しかけてきて、僕をびっくりさせた。本当にひさしぶり(昔は、毎週のように来ていたものだ)なので、僕は少し気恥ずかしかった。とりあえず、食事(かつ丼)を注文する。ここの「かつ丼」はとてもうまい。甘辛い味付けが絶妙なのだ。もっとも「かつ丼」だけではなく、カレーでも焼き肉でも、ここで出すものはすべておいしい。肉もいい肉を使っているし、卵の味はちょっと濃いめで僕好みだし、味噌汁も辛目でちゃんと自己主張しているし、ごはんにはおいしい汁がしみ込んでいるし。僕は残り少なくなってゆく「どんぶりの中身」に名残を惜しみつつも、むさぼるようにそれをたいらげてしまった。そして、心からの満足感と幸福感にひたりつつ店を出た。店を出るとき、おやじさんがいつものように、「ありがとうね」と真心のこもった声をかけてくれた。その声の調子には、おやじさんのやさしい人柄がにじみでている。素朴で、人情味にあふれ、人の心のぬくもりを感じさせてくれる店だ。

 緑美しい自然。おいしい食事。うそいつわりのない純朴で澄んだ心。僕はここに来るたびに、枯れかかった生命がよみがえるような気がする。ここは、僕に新たなる生命を吹き込んでくれるオアシスだ。

 食堂を出て空を見上げると、その空は、まるで青色の絵の具を溶かしたようだった。ペルシャンブルーというのだろうか、陶器のように光沢のある深い青だ。雲ひとつなかった。僕はドライブインの駐車場から、前を走る20号線(といってもこのあたりでは山奧の峠道だ)に出て、上り方面に向かってゆるい登り勾配の道を歩き始めた。いつのまにか体調はすっかり回復していた。峠道をゆっくりと歩いた。道の右側は深い谷になっている。谷は広くて、はるか向こうには、均整のとれた美しい三角錐の山がそびえていた。その山まではかなりの距離があったが、山肌を覆う一本一本の木々がはっきりと見分けられた。美しい緑の衣を身にまとったそれらの木々すべてが、僕にはとてもいとおしく感じられた。

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         美しい三角錐の山。         

 僕は大垂水峠の自然を、この緑の園を心から愛していた。春4月、山がまだ葉を落とした木々に覆われ、茶褐色になっている頃、まず桜が咲き始める。桜は山全体を覆う茶とグレーの色調を背景に、あたかも白くたなびく霞のように、山肌のあちこちにまだら模様を描く。そして「こんなに桜があったのか!」と人々を驚かす。その桜が散り始める頃には、木々の枝には若緑色の新緑が顔をのぞかせる。それはあっというまに広がって山々を覆い尽くす。やがて緑の衣をまとった女王「5月」が現れる。彼女はやさしく微笑みながらエメラルドの錫杖を高々とかかげ、夏の到来を宣言する。こうして木々にも、動物にも、人間にも、すべての生きとし生けるものに生命にあふれた喜びの季節が訪れる。大都会東京のすぐ近くにあって、これほどの豊かな自然に恵まれている大垂水峠。フランスのミシュランの観光ガイドブックに、この大垂水峠を含む高尾山系が、最高ランクの三つ星に選ばれたそうだが、それも当然のことだ。ちなみに、選出の理由の一つは、僕が以前から主張する、“大都会に近いにもかかわらず、奇跡的に残る大自然”だ。

 歩きながら下の方に目をうつした。まわりを緑の壁に覆われたはるか谷底に、なにか銀色に光るものが見えた。よく見るとそれは水流だった。川とはいえないような小さな流れ。しかし、流れる水がさかんに変化する様子や、かすかに聞こえる水音から、かなり激しく流れているのがわかった。今年は春から夏にかけて雨が多かったので、水量が豊富になり、普段目につかないそのような小さな流れも、はっきりと見えるようになったのだろう。

 僕は踵を返してドライブインの方へと、ゆっくりと峠道を下り始めた。歩きながら、あいかわらず青い空を、そして豊かな緑に覆われた山々を、名残惜しみつつ、“目に焼き付けるように”ながめた。最近は昔ほど頻繁に来ることができなくなっている。しばしのお別れだ。

 ドライブインの駐車場に着くと、出発のしたくにかかった。頭に赤いバンダナを巻き、顔にも同じ赤いバンダナで覆面をしてヘルメットをかぶった。手には皮のグローブ(手袋)をはめる。右手のグローブには、今日出かけるときにつけたガムテープが巻かれていた。白赤のグローブに幅の広い真っ黒なガムテープは、いやでも目立つが、縫い目がほつれて大穴が開いているので、いたしかたなかった。いい年をしてみっともないと思われるかもしれないが、こうした補強はライダーにとっては、ある意味での勲章みたいなものなのだ。他人の目を気にせず、ラフに、ワイルドに、なりふりかまわず、自らの好きな道を邁進する。これもバイク乗りの自己表現の一つであり、誇りをもって行うパフォーマンスなのだ。僕がピンクのオートバイにまたがり、ピンクのジャケットをはおり、赤いバンダナを巻いているのも。さらに、荷物を入れるバックが赤いのも、そのバックを後部座席に固定するネットまで赤いのも、みなすべて世間的な常識に左右されず、自分自身の求めているものに忠実に従ってゆきたいという思いからだ。特に気負いがあるわけでもなく、人の目も気にならない。誰に迷惑をかけるわけでもないので、他人がどう思おうと関係ないと思っている。

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         穴空きグローブ。夏は涼しい。

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         ピンクのオートバイにピンクのジャケット。

 話がそれてしまったが、このように僕は、「自分好みの派手な装備」を調え終わると、最後に荷物がしっかり固定されているかを確認し、いよいよエンジンを始動した。さあ、大垂水峠へ走りに行こう。昔のように「走り屋」としてではなく、ツーリングライダーとして。

 僕は峠の頂に向かって走り始めた。そして、まもなく都県境になっている頂上部分を越えた。そこを越えてしばらく下ると、走り屋たちの言う「東京側のコース」がある。峠の北側斜面のワインディングで、神奈川県側の南斜面と違って、当然のことながら日当たりがよくない。しかし、その分、うっそうとした森に覆われ、開かれていない山地としての野趣とおもむきがある。山肌や、道の両側を埋め尽くす、あふれんばかりの木々の緑。その美しさは、心地よい音楽のように僕の心をなぐさめ、いやしてくれる。そして、その奥深さは、僕をおごそかな感動で満たしてくれる。大都会に近い別世界。自然の楽園。僕はこのすばらしい自然にふれたくて、今ここにいるのだ。“走り”を楽しむためではなく。

 「東京側のコース」を下った僕は、そこを通り過ぎてしばらく行ったところにある、左の脇道に入った。そして、そこでUターンした。このあたりは、Uターン禁止なのだ。再び20号線に出た僕は「東京側のコース」へと引き返した。今度は登りだ。コースのスタート地点を通り過ぎた。少しづつスロットルを開ける。ほぼ直線の長い道が続く。どんどん加速してゆく。僕の心の中で何かが動いた。さらに加速する。直角に近い第1コーナーが迫って来た。メーターは80q/h を指している。ここでブレーキング。以前のように100q/h 以上出すようなことはしない。自重しているのだ。第1コーナーをまわって再び加速。かつてギャラリー・コーナーとして見物人を集めた第2コーナーへと向う。第2コーナーに突入。大きな右カーブの複合コーナーだ。右ひざを外側に突き出し、お尻をシートから右側にずらす。車体が右に傾く。コーナーの出口をにらみスロットルを開ける。ひざのすぐ下を路面がすごい勢いで流れてゆく。僕の身体は弧を描きながら、まわりの景色をえぐるように飛んでゆく。ガードレールが回転する、センターラインが流れる。僕はひたすら、コーナーの出口を見据える。すると、もうすぐコーナーを抜けようというそのとき、僕は「ウォーン」というものすごいエンジンのうなりを聞いた。思わずはっとした。心に衝撃が走った。こんな音はひさしく聞いていなかった。走り屋をやめてツーリングライダーになってから一度も耳にしなかった。僕は愛車にかたりかけた、“そうか、おまえ気持ちいいのか・・・”。 おわり


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 僕の気持ちをいつも支え、元気づけてくれた大垂水峠。

 僕の心のふるさと、大垂水峠よ永遠なれ!




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