夢と冒険とロマン

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<<   作成日時 : 2007/10/28 10:11   >>

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 かつて伊豆の妻良(めら)へツーリングに行った時の思い出を書きました。小さなことで満足する人間の、どうってことないツーリング日記ですが、オートバイに興味のない方も、よろしかったらご覧になってみてください。

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         愛車ヤマハFZR250と。

某年5月3日

 妻良は小さなひなびた漁港だった。すぐ北にある雲見と違い温泉もない。周囲には町らしい繁華な場所もなく、数軒の民宿が目に入るだけだった。土地がら、そういう民宿では、新鮮な海の幸をたっぷりと使ったおいしい料理が味わえるにちがいない。

 そんなことを思いながら歩いているうち、ふと通りがかりの一軒の民宿に目がとまった。庭先に4〜5台のオートバイがとめてある。すべて「三重ナンバー」だった。きっと、ゴールデンウイークを利用してはるばる遊びに来た、大学生かなにかのグループだろう。「気の合う仲間同士なんだろうな」。たった一人、日帰りツーリングの中年ライダーにとっては、なんとなくうらやましい気のする光景だった。

 漁港のあるせまい湾には、色とりどりの“こいのぼり”が横一列に並んで気持ちよさそうに泳いでいた。その数、数十匹。湾を左右から囲む岬から岬へと綱を張り、そのはしからはしまでめいっぱい並べている。この季節には、テレビのニュースなどでお馴染みの光景だが、暖かくうららかな天気といい、のどかな風景といい、本当に“黄金の季節5月”を実感させるすばらしい演出のように思えた。

 道路から海岸に降り港の突堤を歩いていくと、学生風の若い男性のグループが釣りを楽しんでいた。先ほどの「三重ナンバー」の連中にちがいない。僕はその近くに腰をおろすと、のんびりと海でもながめることにした。風もなく波も静かな海は、おだやかな日の光を浴びてエメラルドグリーンに輝いていた。

 しばらくして、釣りをしていた一団が急に騒がしくなった。どうやらそのうちの一人のさおに獲物がかかったらしい。見ると、それは、小さなまだ子供の“ハタ”の一種のようだった。それでも本人は大喜びで、「次はクジラを釣るぞー!」などと、わけのわからないことを言って大はしゃぎだった。全員大盛り上り。うーん、幸せそう!

            *        *        *

 あまり気持ちが良かったので、つい長居してしまった。午後6時過ぎ、ようやく帰途につく。すでに空は暗くなりはじめていた。

 雲見付近のワインディングを走行中、悪いことに雨が降ってきた。カッパに着替えなければならない。しかし、道がせまかったので、安全に路肩に止められるところまで、そのまま走り続けることにした。それに、もしかしたら雨はすぐやむかもしれないという期待もあった。

 ところが、雨はますますひどくなる一方、道はあいかわらずせまい。30分くらい走って、ようやく道路わきにバスの待合所を見つけた。それは、今にもこわれそうな小さな木造の小屋だったが、着替えるのにはかっこうの場所に思えた。中に入ると真っ暗で何も見えない。僕は急いでカッパに着替えた。着ていた服はすでにずぶ濡れになっていた。

 着替え終わって、準備万端ととのい、「さあ、矢でも鉄砲でも持ってこい!」という心境でバスの待合所をあとにした。しかし、走りはじめてまもなく、土肥のあたりまで来たとき雨はやんでしまった。苦労して着替えたあとだったが、なにはともあれありがたい。

 土肥から国道136号線を右に折れ、修善寺方面へと向かうことにしていたが、夜間とあって道が今ひとつはっきりしない。「たぶんここだろう」と見当をつけたところを進んでいった。

 136号は奥に入るとけっこう山深い。道には当然街灯もなく、僕は闇に包まれた。道の両側はうっそうと茂る森。その森からは、強烈で独特な木の匂いと湿った霧が流れてくる。日中は走るのが快適な森の中の道も、夜はうす気味わるいだけだ。なにか人間が立ち入ってはいけない別の世界に入り込んだような気がした。おまけに遠くで稲光がしている。道の不案内もあって心細いことかぎりなかった。ごくまれにほかの車とすれ違うことがあったが、そんなときは心のそこからほっとした。自分はまだ人間界にいるのだと確認できたような気がしたのだ。車とすれ違うのをこんなにうれしく感じるなんて思ってもみなかった。

 このような闇夜を走っている時、頼りになるのは自分のオートバイのヘッドライトだけだ。そして、闇の中に浮かぶメーター類の灯りは、心のささえとなる。自らに寄り添ってくれる唯一の光明として、戦友のように、はたまた救いの女神のように。暗くて、不安で、ゆくえも知れぬ闇夜の道、「暗夜行路」。それは僕の人生そのものだ。

 修善寺に抜けると、あとは雨も降らず、心配していたカミナリ(バイクには落ちるという)にもあわず、順調に走り続けた。

 途中、高速のサービスエリアに立ち寄って食事をとる。食後は外のベンチにこしかけて、楽しそうな家族連れ(旅人は独身)の姿をながめたり、マスツーリングの連中が仲間同士会話する様子を観察したりしながらボーっとしてすごした。そして、深夜12時近くになって、ようやく母の待つ自宅に帰り着いた。





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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
はじめまして。
通りかかったものです。
小さい頃によく読んだ
冒険小説のようで、
とてもワクワクしてしまいました。
また読ませてくださいね。

2007/11/23 22:13
 ↑上記、花さんのコメントは、さる2007年10月16日、当時開設していたブログの記事、「暗夜行路」宛に寄せていただいたものです。その後、僕はそのブログを閉鎖し、新たに同じブログ名でブログ(当ブログ)を開設しました。その際、「暗夜行路」を含む旧ブログのいくつかの記事を、新規のブログに再掲載しました。そこで、花さんからいただいたコメントも、新しいブログに再掲載させていただくことにしました。よろしくお願いします。
旅人
2008/10/03 12:25
 花さん、ようこそ!
 ご訪問ありがとうございます。
 花さんのコメントは、僕にとってブログを開設して以来の初コメントです。
 そして、同時に最高のコメントです。

>小さい頃によく読んだ
 冒険小説のようで、
 とてもワクワクしてしまいました。

 “夢と冒険とロマン”を愛する僕は、読んでいただいた方に、まさにこのような思いを抱いていただきたくて、この記事を書きました。
 コメントをいただいて、自らの記事が最高の評価を受けたような気分です。
 ありがとうございました。
旅人
2008/10/03 12:47
 花さん、僕がこの記事「暗夜行路」を書いた当時は、ブログを始めたばかりで、寄せていただいたコメントに、自らの記事のコメント欄を使用して返信を書くという習慣を、まったく知りませんでした。そのため、返信するまでに20日あまりもかかってしまいました。たぶん、当時書いた返信は、読んでいただけなかっただろうと思います。知らなかったとはいえ、本当に申しわけありませんでした。
 つきましては、ここに当時の返信とは異なる返信を、新たに書かせていただきました。読んでいただく可能性のないことは、じゅうじゅう承知しており、まったくの自己満足ですが、どうしても、花さんのコメントに対する自らの思いを形にしたくて、このように書きました。
旅人
2008/10/03 13:14

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